「現場に携わる我々の思い」 H18.4.1

                   平成18年4月1日
                   (財)ふるさと島根定住財団
島根県の公式サイトには、トップページの一番目立つ位置に、次のように記してある。
“島根県は、「現場主義」に徹し、「自立」「協働」「スピード」を基本姿勢として県政運営を行います。”
そして「現場主義」について、こう解説されている。
“様々な課題は「現場」にあり、打開のためのヒントも「現場」にある。どれだけの成果が得られるかは、地域の皆さんとどれだけ厚い信頼関係を築いているかにかかっている。地域の実情を知り、謙虚に耳を傾け、県民の立場で考える。そうした努力なくして信頼を得ることは不可能である。”
よい言葉である。一方、県という組織が、あるいはそこで働く職員が、「現場」から遠くなりがちな実態があるからこそ、このような標語が必要になるのかもしれない。上の解説からも、そんな姿が透けて見える気がしないでもない。
われわれ定住財団にとって「現場」はすべてである。「現場」以外には仕事がないから、「現場主義」という言葉が浮かんでくることもない。
我々にとっての「現場」は、我々のサービスを必要としてくださる人や企業との接点のことである。
Uターン・Iターンをお考えの方は、これからの人生を賭けるフィールドとして島根が本当にふさわしいのかどうか、判断材料になる情報を必死で集めようとされる。当然のことだ。誰だってその立場になれば必死にならざるを得ない。
だから、「定住情報の総合窓口」としてのお客様との接点は、必ずしも穏やかなものではない。我々が持つ情報の質と量が十分でないとき、あるいは我々の感性がお客様のニーズを的確に汲み取れないときには、厳しいお叱りを受けることになる。
U・Iターン希望者を対象とする職業紹介業務についても、時には厳しいやりとりになることもある。当財団の求人開拓スタッフが懸命に集めてきた求人票をもとに就職先の斡旋を行うのだが、労働条件の面で大都市との格差があることも少なくない。
島根の雇用情勢を説明して理解を得ようとするが、U・Iターンを島根県の政策として標榜するなら、まず県内の雇用環境を整えてからにすべきではないか、といった苦情を受けることもある。我々の力不足を痛感するとともに、我々の力の及ばない大きな構造問題を意識せざるを得ない場面である。
また、求人票を出してくださった企業様から、採用を考えてみたいと具体的なリクエストを受けると、該当する求職登録者(U・Iターン希望者)にお伝えするのだが、なかなか回答が返ってこないケースもある。たしかに、U・Iターンを本気で考えていても、連絡があったからすぐに現在の職場を退職できるとは限らない。家族のコンセンサスも含めてU・Iターンを最終決断するために必要な時間と、企業が採用決定までにかけられる時間とのギャップが存在している。
わざわざリクエストを頂戴した企業様に残念な結果をお伝えするときには本当に切ない気持ちになる。もう我々に求人票を出していただけなくなるのではないかと崖の淵を臨む思いだ。「もう少し待ってみるよ」と言っていただけた時の感謝の気持ちは言葉にならない。
このほかにも、U・Iターン希望者に実際に県内で農林水産業等に一年間従事してもらう「しまねの産業体験事業」。過疎集落が何とか元気をふり絞って地域づくりに取り組もうとされる際のお手伝い。若い人たちが自らの進路や就職を主体的に選択できるような動機づけを行うキャリア・カウンセリング。様々な事情で職を失った方々の再就職に向けたお手伝い……。挙げればきりがないが、我々の業務はすべて「現場」で成り立っている。
そんな我々から見て、昨今の経済効率最優先の「数値目標による成果主義」には違和感を覚えることが多い。無償の公益サービスを提供する担い手として、無駄や非効率がないよう自らを厳しく律すること、社会経済環境の変化に対応した自己改革を続けていくことは当然必要である。
しかし、U・Iターン相談では、お一人に数時間かけることもある。職業斡旋は、一つの成功事例を生むために百倍の地道な紹介を積み重ねる必要があると言われる。一回当たり1時間を一対一の対面で行うキャリア・カウンセリングは、ご本人の就職に向けた機が熟すのに数回で済むこともあれば、数十回かかることもある。過疎集落の元気づくりは、事業が軌道に乗るまで数年越しでお付き合いを続けていく覚悟が必要である……。
本音を吐露すれば、こうした仕事は「数値目標による成果主義」にはなじみにくいのではないかという思いもある。数多くのカウンセリングを経てようやく就職が決定したケースほど、担当者は公益に寄与した喜びを噛みしめる。成果が直ぐにあがらないという理由で支援する集落を選別するようなことをしてしまえば、過疎集落は立ち直れないだろう。
しかし、「成果主義」を否定したのでは我々は世間の共感を失ってしまうことになる。だから、せめて目先の数値だけにこだわりすぎず長いスパンで真の成果を見極める度量を期待したいと思う。
そして、現場に身を置く立場からは、政策立案を担う中枢の考え方がブレずにどっしりしていることが大切に感じられる。現場は目の前のお客様に全身全霊を集中しなければ仕事にならない。中枢が現場を支持しているというメッセージが、阿吽の呼吸のなかで共有されていること。現場が全力を傾注するためには、そのことがとても大事だと思う。

このサイトはオープンソースソフトウェアのRubyで構築されています。