「人口ビジョン」を考える(副理事長  原 仁史)

このほど、国が掲げる地方創生に向け、「島根県人口ビジョン」(素案)が「島根県総合戦略」(素案)とともに示された。
それによると、「2040年までに合計特殊出生率2.07と社会移動の均衡を目指す」ことを前提に、シミュレーションにおける最も高い水準である「試算ぁ複横娃苅闇:55万人、2060年:47万人)を目指す必要がある」とされている。
この数字は、新聞等で大々的に取り上げられたこともあり、マイナスの心理的影響(危機感、不安感、諦め感)を受けた県民も少なくないと思われる。それというのも、国を挙げた地方創生の取り組みの端緒となった「増田レポート」による警鐘、すなわち今後加速度的に進行する日本の人口減少がいずれ「地方消滅」につながるという衝撃的な問題提起が、より身近に実感できる形(数字)で目の前に現れたからである。47万人というのは、現在の出雲圏域の人口に相当するに過ぎない。これでは元気が出ないと、各方面から異論や注文が噴出したのもうなずける。ただ、それほど日本の人口減少は深刻な問題であり、それが全国各地域においてどのような形で現れるかを、地方自治体の「人口ビジョン」の策定を通じて明らかにし、住民の危機意識の喚起・共有を図るというのが国の狙いなのだと推測する。
人口予測は、経済や社会予測と比較してはるかに正確な予想が可能とされている。人口は、「出生」、「死亡」、「移動」というわずか三つの独立的な要因(変数)の総合効果で決まる。変数が極めて少ないこと、また、その変数自体の流動データ(過去からの推移)が正確に把握できることから、その予測精度は極めて高い水準のものとなっている。したがって、この予測が覆るとすれば、これらの変数のうち「出生」及び「移動」について、これまでの傾向(統計的な見通しの基礎)とは大きく異なる実績を積み上げていくしかない(「死亡」には変動要素がほとんどない)。
「出生」や「移動」についてのこれまでの流れ(少子化、東京一極集中等)にストップをかけ、そうしたドラスティックな変化を人為的に生み出すことは現実的に可能だろうか。そのためには、「東京一極集中」の是正をはじめとした抜本的かつ具体的な人口政策が提示され、国民の理解を得ながら強力に進められることが大前提となる。その方向性は、基本的に戦後の経済成長の過程で採られた国土政策、産業政策等とは逆向きのベクトルとならなくてはならないはずだ。
一方で、その間、膨れ上がる高齢人口とすぼみ続ける生産年齢人口が、社会、経済、財政の各方面において様々な深刻な問題をもたらす。当然、これら眼前の諸課題にも待ったなしで対応していかなければならない。何が先決課題かという視点で見たとき、パラダイムの大転換が前提となる「地方創生」政策には、スタート時点から財政的制約の壁が大きく立ちはだかっているように思われる。
日本の人口はこれから数十年にわたって急激に減少していく。すべての事象に波があるように、人口の波もその例外ではない。何といっても、日本の人口は明治維新(1868年)時の3300万人からピークの2004年の1億2800万人まで、わずか100年余りの間に約9500万人、3.9倍も急激に増えたのだ。他の先進諸国に類例のない爆発的な伸びだったと言える。したがって、その波が頂点に達し減少局面に入ったとき、今度はその反動として一気に急激な下降線をたどることは自然の成り行きのようにも思える。自然の摂理として持続可能な水準まで調整局面は続いていくものと冷静に受け止めるべきではなかろうか。
それでも、島根県が島根県として存続しアイデンティティを発揮していくためには、どうしても一定の人口を確保していかなければならない。「島根県人口ビジョン」(素案)では、2060年に47万人の人口を実現するために「2040年までに合計特殊出生率2.07と社会移動の均衡を目指す」という第一義的な目標が設定されている。人口を目標とする以上、このように必然的に人口予測の変数のうち可変性のある「出生」と「移動」に関連する指標に着目することになる。両者の現状の数値(合計特殊出率:1.65(H25)、社会移動:△1、342人(H25))から言って、今後四半世紀中の目標達成は相当に高いハードルと思われるが、まずこの目標を達成できなければ40万人台の確保すらおぼつかなくなる。
「人口ビジョン」は、25年先、45年先という遠い将来の人口を展望するもの、片や、「総合戦略」の方は、「人口ビジョン」に示された現状と将来展望を踏まえて、今後5カ年の目標や施策の基本的方向を示すものだ。両者の時間軸はあまりに違う。ポイントは「人口ビジョン」と「総合戦略」とをいかに関連づけるかということであり、そのためには、合計特殊出生率と社会移動の5年ごとの達成レベル(5年×5サイクル)が「総合戦略」上の目標として明記される必要がある。
そこで、「島根県総合戦略」(素案)を見てみると、まさに【基本目標2】結婚・出産・子育ての希望をかなえる社会づくりの項に「合計特殊出生率1.7」が、【基本目標3】しまねに定着、回帰・流入するひとの流れづくりの項に「社会減400人の改善」が、それぞれ5年後の<目標>として掲げられている。このことは、「人口ビジョン」との関係でとりわけ強調されるべき点と思われる。
そしてやはり、鍵を握るのは、「増田レポート」において「消滅可能性都市」の指標となった20〜30代の女性の人口だろう。新卒者の就職による県外流出(20〜24歳の転出超過数:女性>男性)を極力抑えるとともに、独身者であれ既婚者であれ、この世代の女性のUIターンをいかに促進するかが決め手となる。分母(対象年齢別女性数)が増え分子(年間出生数)も増えるような好循環を生み出すことができれば、合計特殊出生率と社会移動の双方に寄与することになる。
これは、ふるさと島根定住財団のミッションそのものだ。実際、財団が東京、大阪、広島で開催する「しまねUIターンフェア」では、若い女性や夫婦の来場者が数多く見られる。また、財団もお手伝いして今年度浜田市が創設した介護人材の確保と定住対策を組み合わせた全国初のシングルペアレント支援制度の反響も大きいと聞く。もちろん、実際の定住につなげるためには、住まい、就業、子育て支援、教育、地域の受け入れ体制等の定住条件が総合的かつ高いレベルで提供される必要がある。県、市町村、財団が一体となった島根ぐるみの総力結集が不可欠だ。「総合戦略」では、こうした若い世代の女性の心に響く定住施策を、強い誘引力と高いメッセージ性をもって打ち出してほしい。定住財団も「総合戦略」の一翼を担う実行部隊として、「出生率」と「社会移動」に係る数値の向上に向け、全力を傾注していきたい。


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