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若者に選ばれる島根の実現に向けて

若者に選ばれる島根の実現に向けて  理事長 原 仁史

 このたび、6年間にわたり公益財団法人ふるさと島根定住財団の理事長を務められ、島根の定住対策の実行部隊としての財団の役割と存在意義を飛躍的に高められた藤原義光前理事長から財団運営の重たいバトンを引き継いだ。はなはだ微力ではあるが、これまで前理事長が提唱し牽引してこられた「現場主義、前傾姿勢」と「フットワーク、ネットワーク、チームワーク」という社是・社訓を継承し、社会動態の好転への貢献(UIターンの促進、若者の県内就職促進、魅力ある地域づくりの促進)という財団の使命を精一杯果たしてまいりたい。

 先進諸国で類を見ない人口減少・超高齢社会に突入しつつある日本が抱える大きな課題(人口減少の歯止めと東京一極集中の是正)を眼前にして、今、全国の自治体が「地方創生」の掛け声の下限られたパイの奪い合いとも言える競争にさらされている。過疎化・高齢化を全国に先駆けて経験してきた「人口減少先進県」としては、「何を今更」という気分もしなくはないが、そこは危機感を共有して県・市町村・財団の強固な連携協力体制をいち早く築いてきた先進県としての強みを武器に、他県の一歩先を行く取組みにより着実な成果を生み出していきたいと考えている。

 しかし、現実は甘くない。年初に大手都市銀行のシンクタンクが発表した調査によると、島根県は大学進学者のうち8割を超える者(85.6%)が県外の大学に進学し、そのうち約7割(68.5%)がそのまま県外で就職し島根には戻ってこないという推計結果が示された。県外進学者の割合は全国3位、県内に戻ってこない者の割合は全国4位という極めて厳しい状況である。実際、財団が島根県出身の学生が在籍する大学に対して行った独自の調査でも、県出身の新卒者のうち県内に就職決定した学生は約3割という結果が出ている。特に、島根県から三大都市圏である関東・中部・近畿の大学に進学した者の回帰率は平均で2割に満たない。島根県内の二つの大学に在籍する県出身学生でさえ県内就職は5割強にとどまる状況だ。ここの部分が若者流出という形で島根県の社会減の最大因子となっている。

 その要因としては、進学の時点で、県内の18歳人口(約6、500人)に対する県内の大学の収容力が約2割と低いこと、また、就職の時点で学生の志向とマッチングする県内企業が少ないことが考えられる。大学の収容力は、比率が突出している東京都、京都府をはじめとして、平均値(38.7%)を超えている都道府県の多くが大都市圏で占められており、大学経営と若者人口の相関関係を考えるとこの実態は所与のものとして受け入れざるを得ない。また、若者にとって、大学時代に県外の空気に触れ、多くの人と交わり、地域内では得られない学びや経験の機会を得て、視野を広げることは、その後の人生を豊かなものにするに違いない。そうした意義を踏まえれば、県外進学の多さを直ちにマイナスに捉える必要はなく、むしろ、このことを是として、地域外に学びの機会を求め、「進学」という入口で流出した「これまでの地域には不足している能力・知見・発想を獲得した有為な人材」を、いかにして地域に戻し大いに活躍してもらうか、という視点を持つべきだろう。

 その意味で、若者流出のもう一つの要因である大学卒業後の「就職」という出口で、多くの者がそのまま県外の企業に就職し島根に帰ってこないという事実に対しては、極めて重要かつ喫緊の行政課題と受け止め、その改善に向けた取組みを強化しなければならない。 大学生の就職戦線においては、景況感の好転や少子高齢化による労働力人口の減少等を背景に売り手市場が続く中、学生の大手企業志向が高まり、地場企業の採用環境は一段と厳しさを増している。一方で、地元志向であっても希望に合う職種の少なさや給料の低さから、やむなく県外就職にかじを切る学生もいると聞く。就職情報会社マイナビが2017年3月卒業見込みの全国の大学生等を対象に行った就職意識調査では、大手志望の学生が増加する中で、企業選択のポイントとして「給料の良い会社」や「安定している会社」を挙げる学生が増えていることが報告された。

 定住財団が、来春卒業予定の学生に対して行っている企業ガイダンス(合同説明会)や就職フェア(就職面接会)等の参加状況を見ると、参加企業の方は申込みが多数で抽選せざるを得ない状況が続く一方、参加学生の方は就活スケジュールが進むに従い目に見えて少なくなってきている。この7月、財団が東京、大阪で実施した就職フェアでは、いずれの会場も参加学生数が参加企業数を下回った。売り手市場、大手志向の学生の増加とともに、今年は、経団連の指針の変更により加盟企業の採用選考(面接)開始時期が昨年より2か月早まったこともあり、就活スタート(3月)の前にインターンシップ等により企業の情報を事前に収集し、合同企業説明会は最低限の参加にとどめ、その後は各企業の個別説明会に参加するといった流れが一般化しつつあるようだ。大学生の就職活動は早くも終盤戦を迎えている。 大学卒業後の出口(就職先)として、進学先の県内外を問わず、県内の企業・自治体等を志向する学生をいかに増やすかは、社会動態の側面から人口減少に歯止めをかける上で、UIターンの促進と並ぶ重要な課題だ。そのためには、子どもの頃からの「ふるさと教育」等により島根への誇りと愛着を高めるといった長期的な視野に立った取組みから、県内企業等におけるインターンシップや県外主要都市での企業ガイダンス等を通じた県内企業とのマッチング機会の確保など即効性を狙った短期的・実践的な取組みまで、様々な取組みを重層的に展開していく必要がある。

 定住財団は、こうした一連の取組みの中で、大学進学後の若者の県内回帰・定着を目指して、学生と県内企業との出会いやマッチングのサポートをミッションの一つとしている。在学中の学生に島根県内の地域情報や企業情報、就職支援イベントの案内などを定期的に届け、島根とのつながりを持ち続けてもらうことを狙いとした「しまね学生登録」の登録者は、今年6月末時点で約9500人に達し、昨年度(約6800人)を大幅に上回った。特に今春高校を卒業し進学した者の7割に当たる約3300人が新規登録したことは今後に期待を抱かせるものだ(昨年は5割)。また、財団がコーディネートする県内企業におけるインターンシップについても、参加学生数、受入れ事業所数ともに年々増加してきている。

 こうした状況は、若者の県内就職促進の取組みにおいて一定の手応えを感じさせるものではあるが、一方で先に述べたように昨今の就活生の動きを見ると、最終的には景気や市場の動向に大きく左右される姿が想起され、今後の見通しは不透明と言わざるを得ない。「鉄は熱いうちに打て」というが、在学中(卒業年次以外)の学生の動きに手応えが感じられる今こそ、更なる取組みの強化を図り、地元志向の学生を増やす好機としなければならない。

 ポイントの一つは「給料」だ。アベノミクスの地方経済への波及効果は薄く、かえって大企業と中小企業、大都市圏と地方の格差拡大を招いたと言われている。就活生の企業選択に当たって「給料」への関心度が高くなっていることに一層の注意が必要だ。大都市圏の大企業と地方の中小企業との間において、収入面の格差が顕著になっていることにほかならず、地方にとっては、まさに若者定住対策の正念場とも言える状況だ。若者の企業選択の基準としては、「給料」や「福利厚生」などの定量的な物差しと「やりたい仕事(職種)」や「職場環境」などの定性的な物差しがあると思われるが、仮に定量的な「給料」が物差しの主要な位置を占めることになれば、地方の中小企業は到底太刀打ちできない。したがって、我々としては、少なくとも「給料」が最終的な決め手とならないような説得力を持たなければならない。

 もちろん、「ふるさと教育」などを通じて浸み込んだ(はずの)島根の魅力的な環境の中でやりがいのある仕事にチャレンジしようと、若者の感性に訴えることも重要だ。しかし、お金という数字の土俵での勝負ということになると、やはり島根としては収入(給料)だけではなく、支出(生活コスト)を加えた総合力(収支)で立ち向かうことを考える必要がある。

 お手本はお隣、鳥取県にある。鳥取県移住定住サポートセンターでは、鳥取で暮らした場合と東京で暮らした場合の生涯収支を比較し、一生涯の平均貯蓄額はほとんど変わらない、加えて、絆・自然・ゆとりを楽しむ暮らしができる、ということをアピールする学生向けパンフレット(『地方暮らしの人生収支~とっとりの場合』)を作成し、県内の高校等での出前授業などに活用しているとのことだ。鳥取県のホームページで確認したが、なるほど各種データを用いながら説得力ある構成に仕上がっている。先んじられた格好だが、同じ山陰の島根でも同様のことが言えるはずだ。島根でもこのようなパンフレットを作成し、それこそ増殖中の「しまね学生登録」の登録者への提供情報に盛り込むなど、給料の高い県外の大手企業に魅かれがちな学生の心をふるさと島根につなぎとめることに精力を傾注する必要がある。

※鳥取県の関連ホームページはhttp://furusato.tori-info.co.jp/?id=5919

 もう一つ、地域の「暮らしやすさ」を各種指標により数的に分析したものとして、昨年公表された経済産業省の「地域の生活コスト「見える化」システム」がある。これは、地域の生活コストを、金銭的コスト(家計消費支出)プラス非金銭的コスト(生活利便性、教育・子育て、医療福祉、自然環境、災害、ライフスタイル等)という総体的な貨幣価値に置き換え、これによって地域間の「暮らしやすさ」を金額で比較できるようにしたものだ。このシステムは、全国1718市町村と東京23区から地域を選んで、そこに年代、家族構成、居住地選択の好み(「利便性志向」か「郊外・農村志向」か)を入力すると、その地域の暮らしやすさ指標の貨幣価値とランキングが表示される仕組みとなっている。

 公表時には、設定条件を「30歳代(40歳代)、郊外・農村志向、夫婦と子供(小中高生)の世帯」(まさに移住・定住促進のメインターゲットだ)とした場合、全国上位ランキング(ベスト10)に1位の松江市をはじめとして島根県内の5市が入るという嬉しい結果が報道された。「地方創生、東京一極集中是正」の観点から地方移住を促進する狙いもあってか、適度な人口規模での生活の質の高さや大地震のリスクの低さなど、山陰や北陸などの地方に相対的に高い評価が出るような設計となっている感じはするが、地方への移住を考える人にとって、安心して暮らしていくための一つの指標であることには間違いない。島根県をアピールするにも有効なツールと期待された。 ところが今、このシステムは、経済産業省のホームページのどこを探しても見つからない。発表された当時は、経済産業省自ら「当システムは、移住を検討する方々にお使い頂くことや、地方自治体等の移住促進を担当する方々が移住促進戦略を策定するためにお使い頂くことを想定しています」と、報道発表資料(平成27年3月30日)で述べられていたにもかかわらずだ。現在では、この報道発表自体が経済産業省の履歴から削除されている。したがって、当初はダウンロードできたシステム(Excelファイル)が今となっては入手できない。

 「暮らしやすさ」で不利な結果が出る大都市圏の自治体等からの反発やクレームでもあったのだろうか。それとも、システムの根幹を揺るがすようなデータ処理面の瑕疵でもあったのだろうか。その辺りの事情は分からないが、発表時の利用規約には、「システムはβ版であり、多くのユーザーに使用してもらうことで、発見し尽くせなかった不具合を報告していただき、修正することで、正式版に仕上げることを目的としています」との記述がある。それにしても、大々的に発表され、反響を呼んだシステムがいつの間にか人知れず消去されたことには疑問を呈さずにはおれない。システムの開発には相当のお金と人手が投入されたことを思えばなおさらだ。日本経済の旗振り役である経済産業省が開発し、国のお墨付きのシステムとして、活用への期待も大きかっただけに残念だ。

 話が本筋から逸れてしまったが、大学を卒業し新天地で就職を目指す学生には、収入面からだけでなく、生活コストを含めた生活環境や仕事を通じた自己実現の可能性など総合的な見地から、「適地」、「適職」、「適社」を見つけてほしい。我々は、その拠り所になるきめ細かくて、それでいて分かりやすい情報をタイムリーに提供していく必要がある。大手志向に流れがちな学生に県内のキラリと光る企業をよく知ってもらう努力が今こそ求められている。

 そうした中、県内企業でのインターンシップを希望する学生が年々増えていることは朗報だ。財団がコーディネートする今年の夏期インターンシップには、前年より65名多い341名(県内215名、県外126名)の学生の参加申込があった。低学年のうちからぜひ県内企業の業務内容や雰囲気を肌で感じ取ってもらい、島根で働く想いを確かなものとしてほしい。県内企業にも、インターンシップや財団の運営する島根最大級の就職情報サイト等を利用して、自社の魅力を、単なる企業情報だけにとどまらず、経営理念や社長の思い、先輩社員の考えなどを学生に分かりやすく情報提供してほしい。

 国もそういった方向で動き出している。先ごろ、総務省は、来年度から、東京や大阪など大都市圏の学生や若手社員が長期休暇を利用して地方で働く「ふるさとワーキングホリデー」を立ち上げるとの報道があった。都道府県ごとに数百人程度を受け入れ、1週間から1か月ほど、主に製造業や観光業、農業などに従事してもらう、休日には域内観光や地域おこし活動にも参加してもらう、という。地方の消費を押し上げ、人手不足の解消を見込むほか、人口減の加速する地方への移住促進も狙った、まさに一石三鳥の取組みだ。こうした取組みにこそ四半世紀にわたって築いてきた県、市町村、財団による「オール島根」体制の盤石な強みを存分に発揮したいものだ。若者は、「選ばれる島根」の台頭を待っていると信じたい。

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