でんどう

地域振興に関わる様々な方の意見、主張を掲載していきます。

島根県の定住施策

1 はじめに
 大正9年(1920年)、日本で初めての国勢調査が実施された。
全国人口は約5600万人。島根県は715千人。全国順位は36番目だった。その島根県人口は現在70万人割れとなった。この100年間で日本の人口は1億2千万人と2倍以上となり現在に至るが、この大正の国勢調査人口を現時点で下回った県は唯一島根県だけだ。
 今になってあわてているわけではない。戦後のベビーブーマーで膨らんだ時期を除けば、島根の政策課題の中心には常に人口対策があった。
 近年でみても、一時期増加傾向にあった人口が再び減少に転じた平成2年(1990年)の国調を踏まえ、平成4年を定住元年と位置付け諸施策を展開してきた。負け惜しみになるが、それは、全国的にみても先駆的で秀逸な取り組みであったとさえ思う。
   例えば定住企画課の設置(平成7年)、UIターン者向け産業体験の研修費助成(平成8年)、中山間地域研究センターの設置(平成10年)だ。新しいところでは地域おこし協力隊のモデルとなった地域マネージャーの配置などがあげられる。

 「日本創成会議」のレポートが大々的に報道され、関係者に衝撃が起こった。最も大きく扱われた点は「2040年までに地方の523市町村が消滅する」というものだったが、これはショッキングな表現によって東京一極集中の是正を強く求めるメッセージであると共鳴し歓迎している。
 レポートでは、「ストップ少子化・地方元気戦略」が提案された。東京一極集中を是正するため、「若者に魅力ある地域拠点都市」に投資と施策を集中すべしとある。
 この「地域拠点都市」は、「たとえば県庁所在地」と説明されているから、“明らかに道州制を意識したその州都”のことではなかろうとひとまず安堵するが、経済と行政の効率化だけを念頭に没文化で遮二無二「選択と集中」を進め、地域文化を衰退させ、画一的で全国均一な国土にしてしまうのが道州制だから警戒を要する。
「まち・ひと・しごと創生」は道州制とは一線を画したもので、若者が定住しても、地域が廃れる道州制を導入することはないから安心して地方定住を志向して欲しいとのメッセージを明確に打ち出して欲しい。地域文化の存続継承するなかにこそ地域振興はあり、我が国の多様性が保たれる(道州制を実施したい地域はそこだけやればいい。多数決による強制での全国一律では地方自治ではない)。
   それはさておき、政府としても「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、来年度予算では4兆円の特別枠の中で重点的に取り組むという。全国知事会も「少子化対策非常事態宣言」を採択した。国・地方が共通課題として強力に取り組むことに異論があるはずはない。
しかし、今までの地方振興施策(例えば、数次の国土総合計画、新産業都市建設、地方定住圏構想、地方拠点都市構想など)は、着想も理念も素晴らしかったが残念ながら実効ある結果に結びつかなかった。
ここはしっかりと地方から政策提言をして、国の政策を動かすことが必要だ。政策提言は戦いだ。国との戦いという意味ではない。情況や時間との戦いだ。政策提言はその戦略の作戦企画書だ。

 国は、まさに最後の正念場、土壇場と捉え、各省庁の従来の発想やスタンスを超越した思い切った国土計画で臨んでほしいものだ。
   幸いにも昨今、若者の間に「農業、農村はカッコイイ!」という者が増えつつある。全国の地域おこし協力隊のメンバーは約1000人となった。しかしこうした風はまだ微風だ。この風を興し、煽り、強くすることが必要だ。我々はその風を興す「風神」の役割を果たしたいと思う。


2 ふるさと島根定住財団の紹介
 ふるさと島根定住財団は、平成4年に設立され、今年で数え年23歳になる。県の定住対策を総合的に推進する融通性・柔軟性の高い組織として、常に県施策とは不離一体で事業に取り組んでいる。職員数は正規、嘱託などをあわせ約50人だ。財団の気風を一言でいえば「自由闊達」だ。また、その精神は「現場主義」と「前傾姿勢」だ。
 今は、
(1)若者の県内就職の促進
(2)UIターンの促進
(3)地域の振興、活性化の支援
の3本の柱を軸に業務を行い、主たる事務所を松江市(松江テルサ3階)に、支所を浜田市(いわみぷらっと)においている。
 業務は、逐次拡大され、
①新規学卒者などを対象とした県内外での就職フェアや登録した学生への就職情報の提供
②ジョブカフェでの就職活動支援
③UIターンの情報提供
④無料職業紹介
⑤UIターン者向け産業体験の研修費助成
⑥しまね田舎ツーリズムの推進
⑦地域づくりやNPO活動支援
などが具体的な内容だ。

 島根の人口減少の現状の一端を示せば、過疎集落では、人口の流出と高齢化が深刻で、集落によっては人口の大半がひとり暮らしの高齢者の例が珍しくない。集団就職列車や大学進学を契機としてほとんどの子息を都市に供出したためだ。それが高度成長期の良質な労働力として都市の発展を支えたが、団塊の世代を典型例とする都市の人口吸収の結果、過疎と過密の問題が生じた。
 「都市はあこがれの地」で、田舎に残るものは、長男であるためやむなくとか、家業が繁盛している場合とかむしろ例外の観さえあった。それが今日の“高齢者しかいない過疎集落”とこれからの“都市の急激な高齢者の増加”の原因となった。

 島根県は、急激な人口減少による過疎と高齢化の同時進行、地域活力の減退の危機意識でいち早く定住対策に力を入れてきた。
 昭和45年の「過疎法」の制定に当たっても島根県は事務局に職員を派遣し、主導的な役割を担ってきた。それ以降、いうなれば、島根の定住対策は、過疎・中山間地域対策に軸足をおいて進められてきた。(因みに「過疎」の言葉は昭和38年島根県を襲った豪雪後の過疎山村のルポルタージュからスタートした。好著に今井幸彦「日本の過疎地帯」1968年 岩波新書がある)。
 平成10年に中山間地域研究センターを設置したのも、平成11年の「中山間地域活性化基本条例」や「集落振興100万円事業」(高齢化率35%を超えた約1000集落が対象)もこうした政策の一環だった。
 ふるさと島根定住財団もこの過疎・中山間地域対策の一環として、平成8年に産業体験研修費助成を始め、全国から耳目を集めた。この事業は、現在までに農業研修などで約1500人(近年は年50~60人、当初は100人以上でピークは136人)を受け入れ、研修者本人で600人以上、家族を含めれば1000人をこえる定住につながった。
   一方、「都市定住施策」として、ジョブカフェや無料職業紹介などの新しい業務を開始し、現在に至っている。昨年度のUIターン職業紹介件数は125件で特に優れた経験や技術を持った人のUIターンの事例が光る。誘致企業の事業所開設要員としての就職もかなりある。

 全国的にみれば人口定住対策は、都道府県というよりも各市町村の取り組みとして実施されている例が多い。県単位では、島根県が様々な智恵と工夫の “先進県”だった。
 その取り組みは前述したが、そのほかにも補助金要綱で細かなしばりをかけず、地域の話し合いをもとに事業を実施する「島根農業振興対策事業」(昭和50年 当時これを“新島根方式”といった)、「まちむら活性化補助金」(昭和59年)、「住んで幸せしまねづくり事業」(平成3年)などがあり、いずれも市町村や地域の自主性を重視する、「現場主義」に徹した取り組みで、竹下内閣の「ふるさと創生」の理念ともなった。


 3 ふるさと島根定住財団のヒット事業の紹介
 前述した事業のうちいくつかの制度内容を紹介する。なお、詳細を調査するために来県があれば、快くきめ細かく応対したい。

①産業体験支援
 農林漁業、伝統工芸などの技術習得についての研修費を1年間支給することで後継者の養成確保を図るもので、平成8年から実施。財団看板事業の一つとなった。当初は月5万円でスタートしたが、その後「緊急雇用対策交付金事業」で同種の事業が全国的に実施されるようになり、研修費も水準がアップされたため、当財団でも現在は月12万円(実家にUターンする場合には6万円)の研修費を支給する制度。
 研修先の確保や研修終了後の定着のためには、県の農業改良普及員や市町村との連携(首長の熱意や定住支援員のフットワーク)が欠かせない。また、財団の職員が研修スタート時から終了後の定住まで親身になって応対することも大事だ。それがあってはじめて恒常的な制度運用が可能となる。
 この体験事業の派生的なパターンとして「半農半X」研修支援がある。これは、農業と他の仕事Xで農村生活を自らコーディネートするもので、ユニークなケースでは「半農半杜氏」や今後力を入れたいものに「半農半IТ」、「半農半介護」がある。
 半農半X(○○)は「兼業農家」と形態は同じだ。国土と地域を保全する意味で中山間地域での人口の定住を良しとするならば、「日本農業が進化した形態としての兼業農家」を積極的に位置付けるべきと考える。それは、自然に親しみ、自らが口にする食物を自らが栽培する“贅沢”を享受する価値観やライフスタイルに繋がる。「兼業農家」では農業だけでは生活できない貧しい農村のイメージがぬぐえないが、「半農半X」と表現することで新しい息吹や価値観となる。この半農半Xの枠組みは個々の世帯だけでなく、集落営農や地域経営の概念としても適用できる。そして、「農業、農村はカッコイイ!」と考える若者に仕事や活動の舞台を用意することにもなる。


②若者の就職前後の支援
 当財団でも新規学卒者などを対象とする就職支援の「就職フェア」や「企業ガイダンス」を実施しているが、県内に加えて東京、大阪、広島で開催している。そこでは学生の側から企業にアピールする場を設定したり、夕方からの交流会を開催したりして、学生にも企業にも参加することに魅力を感じてもらえる工夫をしている。
 また、学生と企業をインターンシップでマッチングする事業や「先輩社員や若手の社長などとひざを付き合わせ“働くことを学ぶ”事業」によって県内の企業を知る機会の提供を行なっている。就職後の支援では、小規模事業所の場合には悩みを打ち明ける相手がいないことが離職に繋がる傾向があるので、それへの対策として「若者が集い交流する会や交流の場の設定」などを行なっている。
 若者定住のためには、高校との連携を緊密にすることが欠かせない。そこで、現職の高校教員が財団に出向して来ており、財団と教育委員会の2枚の名刺を持っての活動をしている。活動例をあげれば、進学校の高校生を対象とした進路を考えるガイダンスや高校教師の地元企業視察、中・高の生徒に対する社会人基礎講話などだ。私立高校の利用も多い。始めて4年目となるが、学校現場にも趣旨が浸透し、進路指導にいい成果が表れている。


③しまね田舎ツーリズムの推進
 地方や中山間地域は日本文化の原郷であり、そこには廃れたとはいえまだ“美しい日本”が保たれている。
 そこは、「自然の生命」とそれを育み加工する「生産活動」、その生産物をいただく「生活」の「3つの“生”」が良好な関係にある地域だ。人間の本来の生活の場は、もともと自然の生命や生産現場と近接していた。それが都市の形成によって人々の生活はその現場から乖離した。「人間の本来の生活の場である“3つの生”の良好な関係が息づく地方・中山間地域に定住しませんか、定住が無理ならば年のうち何日間かはそこで過ごしませんか、親戚づきあいをしませんか」と提唱するのがしまね田舎ツーリズムの取り組みだ。これを島根の(島根への)定住・交流を推進する理念としている。
交流から定住へ。その中間には2地域居住など多様な交流もある。一般的には「グリーンツーリズム」と称されるが、漁村や海、歴史探訪などの体験活動を包含し「田舎ツーリズム」と名づけた。

 ユニークな取り組みとして進めたいものに「神仏めぐりツーリズム」がある。昨年の出雲大社平成の大遷宮には大勢の人の参詣があった。これを筆頭に県内には他にも由緒ある神社仏閣が多数存在する。社寺縁座の会20社寺による世界平和祈願祭は毎年会場持ち回りで4月に開催される。これへの参加や県内各地の寺社をめぐり、静謐な空間に浸り、心を洗う機会を持ちませんかとの提唱だ。パワースポットブームもしかりだが、せかせかとした今の社会の喧騒から一時でも離れ、こうした安らぎの時間を持つことが必要だと思う。
 平成17年(2006年)、第5回全国グリーン・ツーリズムネットワークしまね石見大会を開催した。県施策で田舎ツーリズムを始めた年であった。それから10年目になる今年は10月~11月に県内全域で184のプログラムを用意して様々な活動を行なう。
 人格教育を考えるとき、さまざまな実体験が豊かな想像力や創造力を養うために欠かせない。自然体験や生産活動体験をつうじて、われわれの生活は自然の生命をいただいていること、その自然の賜物は生産活動によって得るものであること、だから「いただきます」ということばがあることを体得することが必要だ。その意味で政府が進めようとする「子ども農山漁村交流プロジェクト」は意義深い。学校行事に限ることなく、こども会やクラブ活動などのメンバーでの弾力的な活動も行なえるようになって欲しい。

 食育基本法は
「食育の推進に当たっては、国民の食生活が、自然の恩恵の上に成り立っており、また、食に関わる人々の様々な活動に支えられていることについて、感謝の念や理解が深まるよう配慮されなければならない(第3条)」
「食育は、我が国の伝統のある優れた食文化、地域の特性を生かした食生活、環境と調和のとれた食料の生産とその消費等に配意し、我が国の食料の需要及び供給の状況についての国民の理解を深めるとともに、食料の生産者と消費者との交流等を図ることにより、農山漁村の活性化と我が国の食料自給率の向上に資するよう、推進されなければならない(第7条)」
と謳う。「3つの“生”」と全く同様な考えだ。こうした食文化の理解こそが地域振興、地方定住の理念への共感につながる。日本食がユネスコの無形文化遺産に登録されたこの機をとらえて、国民の理解が深まるよう強力に進めて欲しい。
 日本文化の真髄をよく表現する「山川草木悉有仏性」や、「里山資本主義」で提唱されている資源・エネルギーの地域内循環を見直そう、ちょっと前の生活に帰ろうという考えもこれと根っこではつながる考えだ。


4 定住対策は総合対策
 定住対策は総合対策だ。「衣食住」が中でも基本だ。政策としては、働く場をつくる産業政策を基本とし、福祉、教育、文化、都市政策などの総合的な推進にある。
 また、少子化対策は保育や育児、教育などの、子を産み育てやすく、働きやすい職場や社会づくりだ。しかし、忘れてはならないのが「産み育てる世代の人口(増)対策」だし、「出会いの場づくりの“おせっかい”」も時には必要だ。
 したがって、地方においては人口定住対策と少子化対策は極めて密接不可分で、“あれはあれ、これはこれ”で進める問題ではない。お役所仕事をしており総合的視点に欠ける場合はこれを往々にして忘れる。
 子を産み育てる世代は若者世代を措いて他にはない。若者が家庭を持つには「衣食住」を支えるだけの家計の成立が条件となる。若者の給与実態はここ10年ほとんど上昇が見られない中で(むしろ勤務条件は劣化傾向にある中で)、生活費は確実に増加している。善悪は別として、車もスマホも必需品だし、公租公課や公共料金の占める割合も負担感が強い。たとえば住居費だ。低所得者向け公営住宅は高齢居住者の常住もあり、なかなか空きがなく、あってもかなり高い入居競争率だと聞く。
 公営住宅については公共事業見直しの過程ではその使命を終了したような総括がなされた。しかし、若者住宅としての時代的なニーズが新たに生じている。
 かつて「若者定住住宅」を県の定住対策として整備を積極的に進めたことがあった。今も市町で整備する好条件の定住住宅はどこも“超人気”だ。「どういう規模や規格の住宅が求められているか、公共か民間住宅への支援か」などを調査・分析し、「少子化対策における住宅政策」を早急に構築すべきと思う。
 前述したが、島根の定住対策(狭義)は過疎・高齢化、中山間地域対策に軸足をおいてきた。これからはそれと同時に、「地方都市」への移住・交流にも力を入れたい。
 地方都市の特性は、海山などの自然が身近にあり、歴史文化が生活に生きづき、一方では都市的な諸条件もある程度整い、その両面を享受できることだ。そこは “適度な緊密性と適度な無名性の良さ”がある等身大の街だ。この魅力を最大にアピールし、地方定住の実を挙げたいものだ。


5 島根からの問題提起(私案)
 日本創世会議のレポートは、「東京圏はこれから急激な高齢化が進行し、それに伴う医療・介護要員を圏内では用意できないため更に地方から若者を吸い上げる。ただでさえ人口減少が進む地方は子を産み育てる人口がさらに減少し、人口減にますます拍車がかかる。東京は出生率が低く、人口再生産が出来ず、いわば人口のブラックホールだ」という。2010年との比較で推計すると2040年には75歳以上人口は全国で約800万人の増加だという(首都圏では300万人)。必要な介護職員を大雑把に計算すると80万人(首都圏で30万人)だ。(75歳以上人口の30%強が介護認定、認定者数に対する介護職員数の比率は30%強、すなわち75歳以上人口の約10%として単純化)
 これにどう対処していくか?その国家戦略は従来の施策の延長ではないドラスティックな、ダイナミックなものでなければならない。
 この戦略企画を、「極めて荒削りな暴論」だと充分に自覚したうえでの我田引水でいえば、次のとおりだ。

私案
 東京圏には今後介護施設の改築はいいが、新設は認めない。定年になったものは将来の自らの介護を何処で受けるかを念頭に、しかるべき時に選択した地域に移住し、15年~20年は「おしゃれで凛とした元気な活動」を続ける。
 地方ではそれに対応できる受け入れ体制を整備する。医療・介護や税制、地方財政(地方交付税)などの制度は、これを実施するものとして制度設計する。例えば、介護施設入所に伴なう地方負担や健康保険負担などだ。
 地方では、土地の確保が比較的容易で土地価格が低いことから、その分介護施設が安価でゆったりと整備できる。建設コストの低い分は介護サービスの充実や職員の処遇に回せる。そこで働く介護施設職員が地方に定住し、子育てが行われることになる。
 生活コストは地方が低いから介護労働の給与水準の低さが幾分緩和されるし、家庭菜園や半農半介護の選択もある。
 シルバー世代にしても、フルタイムの勤務はできなくても、有償ボランティアなどで地域と顔の見える社会生活を送ったり、趣味や自然とふれあう時間を持ったりできる。
 介護に限らない。医療についても地方の大学病院などへ先進医療のスタッフを移転させ医療機器の整備を集中させる。今は、そうした最先端の高度医療は大都市に集中しているが、流れを逆流させる。
 実は、地方でも介護施設は待機者がある状態だから、とにかく利用定員の増が必要だ。空家や空校舎だってその整備を図る場合の資産だ。しかし活用したくても、建築基準法や消防法の整備水準を充たすには多額の経費がかかり断念して朽ちていくケースや処分するケースがよくある。“時は非常事態”と考えれば、一定程度は基準を緩和し、利用者もそれを承知したうえでの自己責任で、介護付きアパートやグループホームとしての利用が考えられる。
 ある知人が「年金疎開」だという。「都市圏で保有している資産は次世代に売却または貸し付け、その資金は新しい居住地での資金にする」というアイデアだ。都市でも地方でも、家屋などの固定資産は子や孫に世襲する物件ではなく市場で流通させる。あるいは、2地域居住や共同利用(シェアハウス)などの多様な選択肢もあっていい。地方と都市との往復に要する航空運賃などについては「地方の側からの往復格安切符」の制度を作るのもいい。
 シルバー世代向けの多様な参加メニューの用意やコミュニケーションの場の設置はシルバー世代が自分たちで作りだせばいい。テレビではどのチャンネルのニュース報道もみな首都圏中心ではなく、各地の活動を紹介する地方ニュースだけの局が一つぐらいはあってもいい。 こうした「定年疎開(年金疎開)」が新しい国土計画の基本戦略とならないか、行政を知らぬ浅学な輩の思いつきで箸にも棒にもかからないか、「善は急げ」で大所高所から検討して欲しいと思う。


6 おわりに  これまで述べたのは人口定住としての「数」に固執したきらいがあるが、数の議論に加えて地域を支えるさまざまな能力を持つ多様な「人材の確保」の視点も欠かせない。また、これから地方に関心が深まれば深まるほど、そこが移住定住先として選んでもらえる魅力ある地域でなければならない。幸いにも島根県はこれまでも人口が減少するからといって“うつむく”のではなく“前傾姿勢”で、“悲観する”のではなく“冷静な情況判断”で「明るく生き生きとした地域づくり」を進めてきた。その成果かどうかはわからないが“意外に地域が明るい”と評価する声を聞く。
 負け惜しみではなく、こうした考えを持続して、「地域振興」は「地域信仰(信仰に似た地域に対する限りない信頼と愛情)」だとのゆるぎない信念で使命に応えるふるさと島根定住財団でありたいと思う。


 最後に島根県のPRを許されたい。
 我が島根は、長い海岸線が連なる、穏やかで時として荒ぶる海や、絵の島と謳われる隠岐諸島、里山から千メートル級まで連なる山々や多様な河川、夕日に映え朝霧にけむる宍道湖・中海の汽水湖から成る、四季の恵み、海の幸、山の幸が豊富な『美し國』。
 国引き国譲りの神話の古代からの豊富な歴史が往時をしのばせる。神が舞い人が舞う出雲神楽、石見神楽。海・山・里にとり行われる年中行事や民俗芸能など歴史が息づく『神の國』。
 ひかえめすぎるほどに温やかで、人情厚く、きめ細やか。勤勉実直で忍耐強く、奉仕的精神を発揮する県民の集う『民の國』。
 来訪者はこの地を箱庭的といい、神々の座と呼ぶ。日本の面影と呼んだ小泉八雲。今も変わらぬ日本の原郷・日本のふるさと。
 出雲弁で訥弁に語り、石見弁で歯切れよくしゃべり、隠岐弁で情緒豊かに歌う『言の葉の國』。
 空気と水がおいしく温泉の多い、元気で長生きでは日本有数、「お茶」や「花」「食」の文化が生活にとけ込んでいる『粋の國』。


(文責 ふるさと島根定住財団理事長 藤原義光)

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