「当財団の針路に関する所感」 H18.9.3

                      平成18年9月3日
                      (財)ふるさと島根定住財団
先日、近県のマスメディアから取材を受けた。
応対した職員に聞くと、「島根県が人口定住対策のために財団をつくったメリットは一体何なのか」と、何度も尋ねられたという。
なぜそんな質問をするのだろう。財団がなくて済めばそれに越したことはない。行政が自らサービス提供できるならば、行政の直営でやればよいことだ。
われわれは島根県によって設立された財団である。一般によく使われる表現としては「外郭団体」という類型に属する。国の公社・公団・事業団等に対する世間の風当たりが厳しいのと同様、県の「外郭団体」も、無駄や非効率の権化であるかのような十把ひとからげの世評をよく耳にする。
人の世にはままあること、と甘受せざるを得ないのだろうか。
 「厳しい競争社会を生き延びていく処世術もやっと身について、これから勝負しようというとき、突然実家の(あるいは配偶者の)親が倒れて、急きょUターンを考えなければならなくなった。今さら島根に帰って生活が成り立つのだろうか……」
 「生まれ育った都会の生活に、いつとはなく疑問を感じ始め、その疑問が次第に大きく膨らみ、いま踏み出さなければきっと一生後悔することになると思う。島根は、そんな私の思いを受けとめてくれる場所だろうか……」
 「親のイケンには聞く耳持たず、ひたすら夢ばかり追い続けてきた。ツトメニンになって社会の歯車になるなんてダサすぎる。でもブッチャケ、オトナになることから逃げてきたかな。これからオレどうしよう……」
人生の分岐点に立つとき、相談できる誰かがいれば、どれだけ心強いだろう。
われわれは、その誰かの替わりに話を聴き、応援し、しかるべき関係先へとつなぐ役割を担っている。人口定住は、行政にとっては数値目標だろうが、当事者にとっては一人ひとり人生の重大な決断である。
だから、われわれは、行政にはできないミッションを与えられているという自負を持ってやってきた。職員の殆どがUターン経験者か、Iターン者である。職歴・経歴もさまざま。身分の不安定な非正規雇用の職員が9割近くを占める。そんな事情もあって、当財団にアクセスしてくださる方々の心配や悩みを、職員自身が、「過去形」ではなくリアルタイムの事象として同じ土俵のうえで共有しているのではないかと思っている。
人生の分岐点に立つ人々との共鳴・共感から、われわれの全てのサービスは始まっている。職員のそうした思いやモチベーションが、行政とは質的に異なったサービスを提供する原動力になっており、それが当財団の存在意義につながっているのだと思う。
「人口定住対策のために財団をつくったメリットは一体何なのか。」今のところ、設立者である島根県から、原点を疑問視するような問いかけをされたことはない。現場の判断を信頼し、重要な使命と広範な裁量を与えてもらっている。
しかし、納税者はどう見ているのだろう。利用者はどう評価しているのだろう。
職員の熱い思いがあるから大丈夫だ、というような自己中心的な独善に陥ってはならないと思う。われわれの存在を、時代の潮流の中で客観的に見つめる視点も併せ持つ必要がある。
財団の在り方を議論する切り口は幾つもある。行政改革の度に用いられてきた伝統的指標も数多くあるが、とりわけ今、意識すべきは「市場化テスト」そして「公共サービス改革法」であろう。官から民へという構造改革の考え方に沿って、公共サービスの提供主体の地位を、行政と民間とで競争させようという動きである。
今年7月施行されたばかりの「公共サービス改革法」は、当面は、国民年金保険料の収納やハローワーク関連業務など限られた分野での官民競争から始めることとされている。地方公共団体が導入するには各々の地方独自の手順を踏む必要もある。当財団のサービスが直ちに「市場化」の対象になるというわけではないようだ。しかし、およそ税金で賄われるサービスは、いずれ何らかの形で「市場化」の荒波に揉まれる可能性を想定しておくべきだろう。
「公共サービス改革法」の利点は、内閣府の広報資料によれば、官民競争による公共サービスの「コストダウン」と「質の向上」だとされている。いずれ、この二つの指標で、公共サービスの提供主体はその存在意義を問い直されることになるかもしれない。
当財団の場合、人件費コストは民間水準に比べて遜色ない。むしろ強く意識しなければならないのは「サービス品質」だろう。対価を求めない無償の公共サービスは、「市場」の外にある構造上の問題として、品質向上のインセンティブが働きにくいと言われてきた。しかしこれからは、顧客(利用者)満足度に敏感な民間企業との競争をも意識しながら、「サービス品質」を高めていかなければならない。
U・Iターンをお考えの方々やふるさと就職を目指す若者に、納得していただけるサービスをぜひ提供していきたい。だから、「サービス品質」には徹底的にこだわりたいと思う。
そのためには、人口定住対策を総花的に進める「総合デパート」から脱皮し、品質の高さで一目置かれる「専門店」への進化を模索すべき時期を迎えているのではないか。そう思われてならない。
さて、どんな領域の「専門店」を目指すのか、われわれは今まさに分岐点に立っている。今日は、当財団の14回目の誕生日である。

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