年頭所感

今年は酉年

 新しい年が始まった。今冬の山陰は12月に雪がほとんど降らない状況だったので、平成22年暮れから翌23年正月にかけての豪雪のような大寒波の襲来があるのではないかと危惧していたが、幸いにも穏やかな正月を迎えることができた。

 天候に限らず、年の変わり目にしては妙に静かでふんわりとした感じのバトンリレーだったなと思ったのは私だけだろうか。これは「嵐の前の静けさ」なのではと、ふと思ってみたりする。今年の干支は丁酉(ひのととり)。丁酉の年は、陰陽五行では火と金の組み合わせで「相剋」(対立・矛盾する二つのものが互いに相手に勝とうと争うこと)の関係にあり、革命の年とも言われるらしい。奇しくも2017年はアメリカの大統領が交代する年。良くも悪くも絶大な影響力を持つ新大統領の誕生で世界の政治経済はどのような動きを見せるのだろうか。それは、日本にとって吉なのかそうでないのか、全く予測がつかない。そのことが静けさを助長し、不安を煽る。

 それはそうとしても、「酉」に当てられた動物は鶏だ。鶏は、夜明けを知らせる鳴き声から、中国では吉兆をもたらす動物とされている。日本でも、天岩戸神話にみられるように、鶏は新たな時代を切り開く吉祥のシンボルだ。見方を変えれば、酉年は新しく物事を始め、挑戦するにはグッドタイミングの年と言える。先行き不透明であっても、腰が引けるようなことなく、今年も「前傾姿勢」で取り組んでいきたいものだ。

財団の合言葉

 「前傾姿勢」は、「現場主義」と並ぶふるさと島根定住財団の社是だ。財団の仕事始め式では、財団の業務を遂行するうえで拠り所となる心構え(合言葉)を新年に当たって今一度確認しようと述べた。

 まずは「ミッション」。これは言うまでもなく「定住人口の増」だ。財団は、定住の総合窓口として、相談・支援に万全かつしなやかな態勢で臨まなければならない。ミッションをもっと直接的に言い表せば「県外人口の取り込み」ということになる。UIターンによる移住・定住人口を増やすことはもちろん、島根を訪れて魅力を体感し島根ファンになってもらう交流人口を拡大することも大切な取組みだ。こうした層の厚みが移住・定住に向かう流れを確かなものにする。

 次に「社是」。社是と社訓の区別は判然としないが、職員のすべてが共鳴して大切にすべき姿勢を社是と心得たい。その社是である「前傾姿勢」と「現場主義」は、全職員の心に深く浸透している。嬉しいことに、仕事始めの日には、書家でもあるスタッフ職員がこの二つの言葉を大書した立派な張り紙を作ってきてくれた。早速、皆に紹介し執務フロアの誰もが見える場所に掲げたところだ。ところで、一口に「前傾姿勢」、「現場主義」と言っても具体的な局面でこの姿勢を意識できなければ意味がない。その時々の場面に応じて、他のキーワードに置き換えてみるとより実感しやすく執るべき行動が見えてくるのではないか。例えば、「前傾姿勢」では、熱意、気概、挑戦、主体的、能動的、アピール、迅速、攻めと守り、知性を高める、といったキーワードが思い浮かぶ。「現場主義」では、現場目線、実践、対話、オリジナル、地域重視、机上より現実、画一より多様、集中より分散、量より質、感性を磨く、といったキーワード群だ。そして、「前傾姿勢」と「現場主義」は、別々のものとして並列的に捉えるのではなく、両者で一対のセットとして捉えるべきだ。「前傾姿勢」で「現場主義」を貫く――この姿勢によってこそ社是の持つパワーが全開する。

 次に「社訓」。社訓は、業務を遂行する上での態度・方法、行動指針と位置づけたい。社是を果たす際の具体的な動き方と言ってもいい。「鳥の目(全体の把握)、虫の目(部分の把握)、魚の目(流れの把握)」で「フットワーク、ネットワーク、チームワーク」を実践しよう。実際の仕事をする上で役立つ言葉だ。

 最後に「社風」。社是・社訓に加えて社風を確立し大切にしたい。社風とは企業風土と言えるものだ。財団の社風はと問われれば、「3つのWILL」が息づいている職場だと胸を張れるようにしたい。「3つのWILL」とは、”通しのよい意思疎通、⊆由闊達な意見交換、迅速な意思決定をいう。石油業界で数々の大型企業合併・経営統合を成功させてこられた渡文明JXホールディングス名誉顧問(両親が島根県出身)が、企業文化の統合を図るための共通言語として掲げられたものと、氏の講演で伺った。財団の社風もかくありたい。「3つのWILL」が躍動すれば、何事につけ「あうんの呼吸」がとれるはずだ。

地方創生の行方

 さて、飛翔の年と言える今年、財団は何を目指そう。端的に言えばミッションの実を上げていくことに尽きる。それも、外連味や衒いはなしで、地道に継続的に、それでいて拡大志向で。

 新年早々の報道に、鳴り物入りで始まった「地方創生」の取組みが進んでいないと思う人が8割近くに上るとの全国世論調査の結果の記事があった。東京一極集中の是正を望んでいる人が約75%に達する中で、目玉政策となるはずであった中央省庁の移転や企業の本社機能の地方移転などが全くと言ってよいほど進んでいない現状に鑑みれば、当然の結果と言えるだろう。動き出してからわずか2年余りで、「地方創生」は早や色褪せた感すらある。自治体の取組みを支援する地方創生関連の交付金も、元々十分な予算規模でない上に交付率が半減するなど、使い勝手はより悪くなっている。すでに政府の掲げる旗は、「地方創生」から「一億総活躍社会」、さらに「働き方改革」へと変わってきており、今以上の充実は望めそうにない。

 しかし、正直な気持ちを言えば、むしろこれでいい、と思う。そもそも、地方の自主的・主体的な取組みを促す交付金でありながら、使途について国が細かくチェックするなど、自由度に乏しく地方の特性を活かせる仕組みになっていない。今の時代に中央集権的手法で地域活性化策を推進しても、各自治体に似たような武器での消耗戦を強いることになり、多くの地域により一層の疲弊感を残すことだけに終わるのではないか。

 そうした中、島根県は、他県に先駆け、全市町村が人口減少・超高齢化の危機感を持って、人口定住対策に真剣に取り組んでいる。その危機感は、行政だけでなく、日々の暮らしを通じて一人一人の住民の心にもしっかりと根付いているように思う。一方、出張等で都会の雑踏に身を置くと、この空間を共有する人々のいったいどれだけが危機感を実感しているのだろうと思ってしまう。その人の置かれている地域によって、時間差的な尺度(感じ方)の違いも出てくるのだろう。だからこそ、単にブームに乗るのではなく、ブームを横目に見ながら、使えるものは使わせてもらいながら、たとえブームが過ぎ去っても動じることなく、地道に継続的に取り組んでいく。これが、厳しいサバイバルを制する道だと思う。

社会動態に注目

 ところで、国・地方を挙げた「地方創生」のスタート時に島根県が策定した「人口ビジョン」では、2040年(25年後)までに、
  ー然動態:合計特殊出生率2.07 ※H26 1.66
 ◆ー匆馥安屐Ъ匆餔榮阿龍儿奸    、H26 △1325人
を目指すこととされた。さらに、これを受けた5か年の「総合戦略」(H27〜H31) では、2019年(5年後)までに、
  ー然動態:合計特殊出生率1.80
 ◆ー匆馥安屐Ъ匆餮今苅娃或佑硫善(△1300人→△900人)
を目指すこととされた。これに対する現状はどうかというと、
  ー然動態:合計特殊出生率1.78 ※全国2位
 ◆ー匆馥安屐Ъ匆餮今牽横舷佑硫善(△1300人→△1001人→△472人)
と、瞬間風速ではあるが、自然動態、社会動態とも順調な改善を示している。社会動態に至っては、2年目にして5年後の目標を大きく超えた状況にある。

 財団がミッションとするのは「県外人口の取り込み」であり、直接的には社会動態の改善だ(若い女性のUIターンは自然動態の改善も期待される)。もちろん、社会動態の改善は、産業の振興・雇用の創出をはじめ暮らしや子育ての環境の整備など様々な施策が有機的に展開されてこそ実現するものであるが、UIターン者の多くから、移住・定住の決め手となったのはその地の「人」との関係だったと聞く。そこの部分を総合窓口として仲介・フォローしているのが財団であり、実行部隊としての矜持もここにある。

 平成27年度の島根県へのUIターン者数(転入時に5年以上の居住意思がある者)は4252人だが、財団・市町村等の行政支援を受けてUIターンした者は、実績からみて大体その3割程度と見込まれる。そうすると、単純計算だが、行政支援で現在の社会減472人の3割に相当する140人程度の増を実現できれば、25年後という遠い先の目標である「社会移動の均衡」の達成も夢ではなくなる。全国競争の荒波にさらされる中で、並大抵のことではないが、県・財団・市町村が一致団結して取り組めば、総合戦略の第一期のうちに実現可能な数字のように思えてくる。目標というのは当事者が我が事と自覚できてはじめて達成意欲や検証意欲も湧くものだ。少なくとも財団は、そういう夢のような目標の早期実現を胸に秘めつつ定住対策に邁進していきたい。

 ただ、そうは言っても物事には波がある。目標は高く掲げるとしても、現実の数字に浮き沈みは付きものだ。数字の動向に一喜一憂しない姿勢も必要だろう。いい数字をマークできたときには素直に喜び、そうでない場合は落ち込まずにしっかり検証しよう。国全体が人口減少社会に突入し、さらに減少スピードが加速していくことが確実視されている。数字の積み増しだけにとらわれると、いずれ挫折感を味わうことにもなりかねない。

 UIターン対策で配意すべきことは、UIターン者の数を増やすと同時に、その質を高めることも重要だ。UIターン者が島根に暮らして、地域に魅力を感じ、やりがい、満足感、幸福感を享受できるか、そして地域の人たちによい刺激を与え、上手な関わりを作っていけるかどうかがポイントになる。本人の意思(思想)・意欲と周囲の理解・サポートがかみ合えば、化学反応が生まれ、人が活性化し、地域が活性化するだろう。

定住対策としての地域づくり支援

 年頭の思いの最後に、この点に触れておきたい。財団事業の柱の一つである「活力と魅力ある地域づくりの促進」は、そんな意味でとても大切な取組みだ。NPO法人や地域づくり団体がユニークな発想や企画力を活かして地域課題の解決や地域の活性化に取り組む事業を支援する「地域づくり応援助成事業」や、地域づくりに取り組む団体に“情熱人(じょうねつびと)”が入ることで新たな地域活動の創出や地域への波及効果がより高い活動への昇華を目的とした「地域づくり情熱人支援事業」などは、現場主義が最も発揮できる場であり、財団の哲学(多様なライフスタイルの実現や新たな経済循環を生む取組等を支援、地域重視・人重視)を実践する場でもある。

 全国に、定住対策として、UIターン対策や若者就職支援を行っている団体は数多いが、地域づくり支援をこれらとセットで行っている団体はどれほどあろうか。県レベルではおそらく無いと言っていいだろう。島根においても、そうしたことは市町村に任せて財団はもっとUIターン対策に特化してはどうかとか、成果がよく見えないといった声が時折聞こえてくるのも事実だ。確かに、県の総合戦略では、「中山間地域・離島対策」の中に「地域づくり人材の発掘・育成」の記述はあるものの、取り立てて評価指標は設けられていない。

 しかしそれでも、財団が他県にはないこうした事業を行っていることが島根の強みを生み出しているとの確信は揺るがない。実際、これらの事業のコアになる部分、あるいは周辺のサポート群の中には、必ずと言ってよいほどUIターン人材の存在がある。地域に魅力がないとUIターン者は定着しないし、UIターン者は自己実現のためにもその魅力を一層高めようと努力する。住民とUIターン者が一緒になって地域をみがく、この良好な関係がさらに新たな人材を呼び寄せる。つまり、地域づくり支援はUIターンを促進する面でも有効に機能しているのだ。あとは、これを外部に「見える化」することが課題だ。成果を数値化できれば説得力も増すだろう。

 財団のすべきことは、やる気のある団体・人材を掘り起こし、事業が軌道に乗るよう、ツールを上手に活用しながら背中を押すことだ。さあ、今年も、地域づくりの雛を見つけに地域に飛び出そう。


             (公財)ふるさと島根定住財団 理事長 原  仁 史


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